学会からのお知らせ

日本看護研究学会主催から会員の皆様に向けて情報を発信しております。

第114号 (2019年12月20日発行)

「一般社団法人日本看護研究学会 第45回学術集会を終えて」

一般社団法人
日本看護研究学会第45回学術集会
会長 泊 祐子
(大阪医科大学看護学部)

一般社団法人 日本看護研究学会第45回学術集会を2019年8月20日(火)~21日(水)の2日間にわたり,大阪国際会議場にて開催させていただきました。早朝の一時的大雨はありましたが日中は両日ともお天気に恵まれ,全国から1,600人を超える皆様にご参加をいただき活気に満ちた2日間を無事終了することができました。学術集会を企画・開催する素晴らしい機会をいただきました一般社団法人日本看護研究学会宮腰由紀子理事長をはじめ,理事・会員,ご協賛いただきました企業の皆様,ボランティアなど様々な形でご支援いただきました皆様に心から感謝申し上げます。
第45回学術集会のメインテーマを検討するにあたり,本学会発足の経緯を見直しました。本学会前身の四大学看護研究学会は4つの国立大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程の教員の先生方の勉強会から発足した日本で最初の看護の学会です。その経緯から,「若手研究者の育成」を使命としていました。現在,看護学基礎教育の大学化が当たり前となっていますが,発足当時,看護系大学数は一桁でした。約半世紀を過ぎ,看護職の専門性の強化や役割拡大が求められ,大学院教育も発展し,すでに専門看護師(CNS)養成も20年を過ぎています。確かな実践知や多くの研究成果が積み重ねられていますが,それらの看護実践や研究成果がどのように社会に評価されるようにできるのか,社会への貢献を可視化したいと思い,メインテーマを『研究成果をためる,つかう,ひろげる─社会に評価される看護力─』として,プログラムを企画しました。
学術集会の趣旨をご理解いただきました演者の方々の講演,会員の皆様のご発表,ご参加をいただきました皆様とのそれぞれの場面での討論は学術集会の目的を十分に深める有意義な時間となりました。演者の皆様,ご参加の皆様に心からお礼を申し上げます。

今回の企画の中では,看護職が研究においては客観性が求められ,苦慮してきた数値では説明ができない患者との関係性など人の心の動きの実践について,特別講演として鯨岡峻先生(京都大学名誉教授)に「質的研究の構築と発展─理論から実践へ─」のご講演をいただきました。講演では,保育実践における場面を用いて「接面」の概念を詳述されました。その内容は,看護職者には看護実践において身近にひとがひとをわかるとき,了解しあえる現象が目に浮かぶように共感でき,参加者の看護職はこれまでの看護実践を研究にして説明できるという大きな自信をもてたと感じました。基調講演では,広井良典先生(京都大学こころの未来研究センター教授)には,「近代科学」が客観性を追求してきたが,一般的法則性に還元できない対象の個別性への配慮が重要となる「ケア」と対立すること,現代の医療保険制度のシステムにおけるケアの持つ課題について言及されました。高齢化社会でのこれまでの医療では行き届かない問題をケアと都市政策の視点を持ち込み,看護学からのアプローチに期待を述べられた。参加者がケアについての幅広い視点から検討できる機会であったと思いました。教育講演Iでは,新谷歩先生(大阪市立大学大学院教授)には質の高いエビデンスの蓄積と活用をご紹介いただくために「臨床研究データの集積と活用法─Research Electronic Data Capture(REDCap)─」についてお話しいただきました。実際のREDCapの利用実績や多施設臨床研究や疾患レジストリ研究などにおけるREDCapの活用事例から介入研究のデータの扱い方に力強いヒントをいただけました。
教育講演IIと教育講演IIIは,看護学研究の成果に視点にプログラムを組みました。教育講演IIの江川隆子先生(関西看護医療大学学長)に「セラピーアイランド淡路島の構築を基盤とした地域活性化と看護教育カリキュラム開発」について,教育講演IIIには,神田清子先生(高﨑健康福祉大学保健医療学部)にがん看護における「看護ガイドラインの基盤となる研究成果の活用と構築」をご講演いただきました。この2本の教育講演では,まさに研究成果の活用・展開・拡大のモデルといえ,具体的プロセスのご説明をいただき,同じような研究課題を温めている参加者には見通しがもてたと感じました。
シンポジウムIでは,特に,社会に見える形での実践活動を「社会にひろげる看護の成果・知恵・経験」として,多田真寿美先生(株式会社ナースあい代表取締役)には,訪問看護の実践から必要と感じたものづくりのために起業し医工連携での実践をお話しいただきました。宇都宮宏子先生(在宅ケア移行支援研究所宇都宮宏子オフィス代表)には,「匠の技」を可視化するプロセスと,起業後の組織を超えての研修や地域の強みを見出すサポートについてお話をいただきました。
三輪恭子先生(大阪府立大学大学院看護学研究科教授)には,前職での「よどきり医療と介護のまちづくり株式会社」でのこどもも高齢者,障がいのある方も,アクティブシニアもともに生きるまちづくりの具体的活動をお聞きし,保健・医療・福祉,行政や企業における看護師の専門性を確認することができました。討論の中で正にアクティブな看護活動に参加者は勇気づけられ,自分たちもと感じられたと思います。
シンポジウムIIでは,研究成果をもとに我々が提供している看護技術や看護ケアが正当に評価されるためには,今後どのような取り組みが必要なのかを改めて考える場として「診療報酬につながる研究成果の示し方,つかい方」を企画いたしました。箕浦洋子先生(関西看護医療大学教授)には診療報酬を審査する側から,渡邉眞理先生(横浜市立大学医学部教授)にはがん看護学会の委員会活動での研究成果の作り方を,叶谷由佳先生(横浜市立大学医学部教授)に,私も共同に取り組んでいる本学会での研究プロセスを紹介していただきました。研究成果を診療報酬につなげエビデンスの出し方は診療報酬の考え方にマッチする必要があります。診療報酬の獲得は,社会に評価されるひとつの方法であり,看護職が人々の健康に貢献している看護力をもっと一般の方に知っていただけることを願っています。
以上のプログラムは学会誌に寄稿いただきますので,是非ご覧ください。
本学術集会でも,市民公開講座を開催しました。大阪医科大学が地域住民の健康促進の貢献に取り組んでいる健康寿命をのばす「たかつきモデル」にちなみ,市民の皆様の健康増進の一環に2日目に寺井陽彦先生(大阪医科大学医学部)に「ちょっとしたコツで変わるオーラルケア─古くて新しい方法─」を日常の習慣を少しの見直しで口腔の健康を保てるコツをお話しいただきました。歯磨き時に少し思い出していただければ幸いです。
大阪での学術集会の開催は第29回に続き,2回目となります。大阪をアピールするものはないかと話し合い,ポスターに大阪城を描き石垣に人の顔,石垣の間に大阪の名物のたこ焼きや食い倒れ太郎,かに,太陽の塔などを覗かせ大阪の笑いを潜ませました。ご参加いただけましたことが笑いと学問的刺激で心地よい思い出になりましたことを願っております。皆様の笑顔があふれる2日間となりましたことを本当にありがとうございました。
最後に労を惜しまず縁の下の力持ちをしてくださいました企画・運営委員,実行委員の皆様に御礼を申し上げます。

一般社団法人日本看護研究学会 第45回学術集会印象記

兵庫医療大学
橋本 こころ

日本看護協研究学会第45回学術集会は2019年8月20日,21日の2日間にわたり,グランキューブ大阪において開催されました。学術集会長は,泊祐子先生(大阪医科大学看護学部教授)が務められました。本学術集会のテーマは「研究成果をためる,つかう,ひろげる─社会に評価される看護力─」であり,臨床で埋没している正当な看護力を可視化し,それを一過性に終わらせず,継続させていくためには,どのようにすればよいのかを考え,社会に評価される確かな看護力を次世代に伝えていきたいという思いが込められていました。2日間に聴講し,興味深かった一部について紹介します。
【特別講演】鯨岡峻先生(京都大学 名誉教授)の「質的研究の構築と発展─理論から実践へ─」についてです。鯨岡先生は,「関与観察とエピソード記述」を研究の方法論として提唱されており,従来のエビデンスを中心とした数量的アプロ―チでは行うことはできず,人と人が接するときに両者のあいだに生まれる「接面」から感じ取られる心の動きの領域であり,下記のように述べられました。目に見えない,測定不能なエビデンスに繋がらない,この心の動きの領域には踏み込もうとしてこなかったし,実際に踏み込めませんでした。しかし,人と人がことで営まれる対人実践には欠かすことがない領域であり,数量的エビデンスとして示すことができないから扱わなくてよいと言える領域ではありません。対人実践の最も重要な局面は,相手の心の動きと自分の心の動きが繋がったり途切れたりしながら,そこに様々な感情が双方に生まれ,それが相互に変容していくところにあるからです。エピソード記述を中心とした質的研究において①関係性を分断しないこと②接面を重視すること③心の動きを重視すること④書き手(研究者)の当事者性を自覚することと述べられていました。鯨岡先生の講演を聴講し,看護研究における質的研究について理解を深めることができました。また,改めて看護実践や看護研究について考えるきっかけとなりました。特に,看護研究においては,看護実践が対人実践で行われるため,数量的に測定することが困難であることが多いですが,理論値に変えていくために研究を続けていく必要があると実感しました。【交流集会10】村井文江先生(常盤大学),石原あや先生(兵庫医療大学),石村佳代子先生(一宮研伸大学),山田律子先生(北海道医療大学),鈴木明子先生(城西国際大学),山本裕子先生(畿央大学)の「若手看護系大学教員のキャリア開発支援:看護系大学教員“不足”の解決策を探る」についてです。
はじめに,①看護系大学の実態②若手教員が経験する教育遂行上と研究遂行上の困難と対処③看護教員となるまでの主なキャリア経路について研究結果の報告がありました。近年,看護系大学教員を取り巻く環境や状況について理解を深めることができました。また,グループディスカッションでは,若手教員(勤務経験が5年未満の助手・助教)と若手教員を支援する側に分かれて「若手教員をどう育てるか!若手教員のキャリア開発支援を考える」をテーマに意見交換を行いました。実際に同じような立場にある方々との意見交換は,私自身も悩み困っている話題が多く,大変興味深いものでした。看護教育の発展のためにも,若手教員のキャリア開発支援が必須であるということを改めて認識できました。そのために,実際に組織的に取り組みを行っている具体的な方法について知ることができました。組織の理解や協力を得ない状況での若手教員のキャリア開発が困難であると改めて感じると共に,若手教員自身も個々の取り組みにおける努力が必要であると痛感しました。
【交流集会14】カルデナス暁東先生(大阪医科大学),田中克子先生(大阪医科大学)の「すべての女性への新たな看護ケア~その人らしく生きることを応援する岩井式メイクセラピーの臨床への応用~」についてです。メイクアップは対象者の免疫系の亢進等の身体的側面への効果以外に,リラクゼーションや積極性の向上等の精神心理的側面の効果,対人関係の改善や社会性の発達等の社会的側面の効果,また生活リズムを調整する効果もあるといわれています。岩井式メイクセラピーは,心理カウンセリングの手法を取り入れたメイクアップ技法で,メイクアップスキルの指導のみでなく,その人が「なりたい自分像」を日常メイクで表現し,女性に自分に関心,自信をもたせるという関わりをすることが特徴とされている。
実際に,大会長である泊先生の「なりたい自分像」と服装や雰囲気に合わせ,カルデナス先生が顔の半分にメイクを行い,さらに半分にメイクを行いフルメイクが完成しました。私は泊先生と初めてお会いしたのですが,フルメイクを終えた泊先生は,凛と強く自信に満ち溢れ,女性らしい優しい雰囲気が伝わってきました。日々,当たり前のように行っているメイクについて,看護師が行うケアとして興味や関心を強く持ちました。また,疾患だけでなく,その人らしく過ごすことができるための支援として,高齢者へのケアの可能性を強く感じました。
【ランチョンセミナー】児島ひで美氏(東京アカデミー講師)の「看護師国家試験 学生はどこに,なぜ,どのように躓いているのか~躓きからの脱出法を東京アカデミートップ講師が最新の本試験問題を使い,解説します~」についてです。セミナー会場に入って印象的だったのが,学生の方も多く参加されていたことです。近年の国家試験問題の傾向や解答を間違える学生の学習傾向についてのお話がありました。国家試験が不合格となる学生は,国家試験対策に取り組みを始めるのが遅く,1~2年の成績も思わしくないことが多く,基本的な解剖生理学などが理解できていないという傾向がある。また,状況設定問題の出題傾向として,状況設定を説明する文章が長くなり,検査データなど多くの情報が記載されているため,文章の読解力や問題に応じて必要な情報を適切に選択することが求められています。実際の問題を解きながら,解き方のコツや学習方法を知ることができました。今後,学生と関わる際には,全員が国家試験に合格できるように早い段階から関わっていきたいと強く思いました。
私事ではありますが,看護の基礎教育を教えていただいた先生方や大学の同級生に会うことができ,少しの時間ではありますが会話することができたことは喜びであり,頑張っている姿を見ることで私自身も頑張っていこうという思いを持つことができました。最後に,泊先生をはじめ,学術集会の運営に携われた多くのスタッフの皆様,ご配慮いただきありがとうございました。

一般社団法人日本看護研究学会 第45回学術集会印象記

甲南女子大学大学院
看護研究科博士前期課程
小西 知子

真夏のピークを越え,少し蒸し暑さが残る8月20日・21日,大阪国際会議場で開催されました日本看護研究学会第45回学術集会に参加しました。
学会テーマ「研究成果をためる,つかう,ひろげる─社会に評価される看護力─」から教育,診療報酬,実践など様々な面からの講演,交流集会,一般演題がプログラムに盛り込まれており,スケジュール調整に悩みつつ参加しました。
私が参加した企画の中で関心があったのは,交流集会「明日からの実践のヒントを得る─急性・重症患者看護,精神看護,家族支援専門看護師の家族看護実践─」でした。私自身,日頃は産科病棟/ NICU病棟に勤務しており,褥婦や新生児のケアを行っています。産後,初産婦さんは初めて新生児との生活,経産婦さんは上のお子さんと新生児を迎えての育児に戸惑いつつ,退院後の生活が始まります。日頃,1週間足らずの入院期間に褥婦や家族の考えや役割を確認しながらも,十分な話し合いができないまま退院を迎えることもあり,次回健診まで健康で,楽しい産後の生活を送ってほしいと思いながら送り出すこともあります。
交流集会では演者の八尾さんから少ない情報を基に救急という緊急性の高い患者の医療処置や治療の援助を行い,緊迫した状況の中でも家族と向き合い,動揺する家族のケアも行う場面を聞かせていただきました。救急看護というと患者の処置や治療が優先され,家族は待機する場面が想像されますが,混乱している家族の存在を意識して「関わる」重要性を感じました。
安藤さんは母親と相反する父親と父方両親との希望に板挟みとなり思い悩む母親を支え,思いが異なる家族の関係性を壊さず,家族の思いの着地点を探りながら,忍耐強く寄り添う看護を学びました。また患児の病状が明らかになる中,揺れる家族の思いに看護者が翻弄されるのではなく,個人の気持ちを大切にしつつ「家族」を客観的に捉えて判断する必要性を理解しました。
松本さんは余命宣告をされた患者家族と接し,家族の意向が集約できない場合,患者家族1人ひとりの気持ちや役割を確認した後,アプローチする方法としてリフレーミングの重要性が紹介されました。「決めきれない」「どうしたらいいのか」と混迷する家族の気持ちに対して,捉え方に変化を起こすことで新たな視点をもって意思決定に向けて進んでいける,滞っていた考えに変化が起こることが理解できました。
3人の演者の方から患者家族も看護の対象者として捉え,個人を尊重する一方,家族をシステム的なアセスメントから捉えていく実践を伺い,臨床現場での家族看護により深みを持たせるよう励んでいこうと感じました。
交流集会で発表者が各々の立場で家族と向き合った経験の発表は,どの場面も共感・理解ができ,これからも患者と共に家族にも関わっていきたいと励みになりました。時間があれば,揺れ動く家族に寄り添う看護者の苦悩や看護者間の意見調整などもお伺いしたいと思いました。
1日しか参加できませんでしたが充実した学術集会を経験できました。

一般社団法人日本看護研究学会 第45回学術集会印象記

大阪医科大学
看護学部4年生
星野 聖菜

今回,学会に初めて参加して,また裏方としての仕事を務めました。「学会に参加しない?」と先生から声をかけていただいた時は,率直に驚きましたし,学生生活では触れられないことに触れられる良い機会だと思いました。当日,詳細を知らないまま会場に着き,まず裏方のスタッフ(先生方や学生)の多さに驚き,規模の大きさを目の当たりにしました。
私は誘導係でした。1Fのエレベーター誘導や,ポスター会場や口演が行われる各会場の誘導でした。
誘導の仕事を通じて,参加者層の広さを感じました。「日本看護研究学会」といっても男性の参加者も多く,ぶら下げているネームタグには日本全国色々な県の方がおられました。学生が自ら参加している姿も見ました。参加者を見ても幅広い層がこの学会に興味をもっていることを実感しました。
誘導の仕事の空き時間には,各会場を見学することができました。ポスター会場と同じフロアの企業展示には多くの企業が来られていて,私達が演習で使う人形や採血の練習をする用具から睡眠センサー付きのマットレスといった最先端の技術を活かした物品の展示,ドライシャンプーの展示まで,本当に様々な展示がされていて,色々なブースを回るだけでもすごく面白く感じました。
講演も3つほど聴かせてもらえましたが,看護の幅が広いように講演内容の幅も広く,また同じ時間帯に他の会場では他の講演が行われていて,自分の興味に合わせて講演を聴きに行けるため,1日を非常に楽しく過ごすことができました。
学生時代に貴重な経験ができたので,次は参加する側になれるよう色々なことに興味を持ってアンテナを貼って,臨床の現場で頑張りたいと思います。ボランティアができたことに感謝しています。


会長講演


一般演題・示説


一般演題・口演


企画運営委員・実行委員・ボランティア